2010年3月17日水曜日

【東京急行】その5:例大祭

しばらく滞っていたが再開。14日に例大祭に行ってきたときの様子。

 例大祭は東方プロジェクトオンリーの同人即売会で、東京ビッグサイトで毎年開催される。今年で七回目となった。即売会と言えば夏にコミケに行ってきたがそのときは午後も過ぎ、人もまばらな時間でのんびりした様子だった。今回は違う。朝から出かけて開場の30分程前にりんかい線の国際展示場駅に到着した。なるほどたいそうな人数だ。
 皆駅に降りると一目散に会場に向かう。早足である。走るのは事故の危険があるために禁止されているのだ。人気のサークルの同人誌はすぐに完売してしまう。したがってなるたけ早く入場の列に並びたい。だから皆急ぐ。速い速い、私も歩くのが速い方だが周囲はもっと速い。徒競走といわんばかりの勢いで、水面を滑走するアメンボのように颯爽と、というより猛烈に、スタスタ歩いていくのにはたまげた。
 会場に着くと、もう数えきれない程の人が並んでいる。

 昨年は4万5千人来たそうだ。 ここで入場券代わりのカタログと紙袋を買った。カタログにはサークルの位置を記した地図がある。サークルは去年3000個程参加したらしい。ここで慣れている者なら目当てのサークルがあって、前もって入り口から最短の経路を調べていたりするのだろうが、初参加でそもそも東方を殆ど知らない自分としては大急ぎでカタログを操り、面白そうな作品を出しているサークルを調べ上げて地図にプロットした。まるで極地に行く探検家である。
 予定の10時より30分程遅れて「堰は切られた」。皆秩序を守りつつもどっと会場内に広がっていく。私は瀬戸内海の海流に流される小舟のようにその人波に乗りつ、乗せられつ広い会場内を漂流する。疎密あるがそれでも大変な込み具合だ。皆小銭を投げつけるようにして同人誌を買って行く。そこにリボンを振り乱しながら闊歩するコスプレした女の子(と男の子)が混ざり、混沌に拍車をかける。私はくるくる立ち回りながらこれはという同人誌を見つけてはチェックして行く。候補に挙げていたサークルの一つは行ったときにはすでに完売していた。どうやら人気のサークルだったらしい。一方で一つも売れていないサークルもある。うずたかく積まれた同人誌を前に作者はボンヤリしている。しかし売れるにしろ売れないにしろ何かを作り出すことは素晴らしいし、その意味でそこのボンヤリした作者は大変な活躍である。
 財布の事情から壮大な買い物は控えざるを得なかったので、また時間も限られていたので最終的に5冊の同人誌を買った。水彩の作品を載せた一冊以外はそれほど感心するものではなかったが、読むにつれて私も何か描きたくなってきた。彼らは自分たちの作品を世に送り出したのだ!それだけでも十分賞賛に値することだ。それはこの世に生きた証である。この後都内をまわる予定だったので私は会場を去った。1時過ぎである。


 例大祭で買った大きな紙袋—女の子の絵でびっしり覆われている—をひっさげて東京庭園美術館に行ったのはあまりよい考えではなかったようだ。戦前に建てられ一時は迎賓館としても使われた庭園美術館は広い庭園を有し、アール・デコ様式の館自体が美術品である。

 ここに来るのは2回目で、前回は毛糸をつかったクラフト展だった。今回はイタリアの藝術運動マッキアイオーリに参加した画家の作品の展示会である。光の研究に熱心だったこれら画家達の作品は巧みに光と色が計算されていて、例大祭の紙袋を片手に館内を巡っていた私はすぐに好きになった。驚いたことに美術館を出たときにはちゃっかり作品カタログを買っていたのだ。
 美術館を出た後はギャラリーを見に代官山に行った。蝶が舞うような文字でウィンドウを装飾したカフェやなんだかものすごく高いメニューを掲げるレストランを前に、例大祭の紙袋を抱えている私はますますちぐはぐな存在になった。代官山はどうも街の構造が変わっている。これは鉄道が代官山で地下に潜るからだと私は思った。どうも落ち着かないので結局たいしたこともせずに家に帰ってしまった。

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